会話力を鍛える

―配信を始めたきっかけを教えてください。
僕、リアルでも結構長い期間カフェスタッフをやってたんですけど、バリスタってただおいしいコーヒーを提供すればいいわけじゃなくて、お客さまとのコミュニケーションが大事なんですよね。周りのスタッフはお客さまとの会話を上手に膨らませているのに、僕は話が途中で詰まったり間が空いてしまったり、うまく話せないのがずっとコンプレックスだったんです。
ただ、人と話すことは好きだし、バリスタとしてもお客さまにもっと居心地の良い時間を過ごしてほしい、笑顔になってほしいという気持ちが強かったので。「苦手だからできない」で終わらせず、逃げずにチャレンジしよう。人と話す練習をしようと思って、IRIAMではないのですが、手軽に始められる配信アプリを始めたのがきっかけです。
最初は、何を話せばいいかまったくわからなくて。しかもIRIAMと違って、自分の配信に誰が来ているのかが見えないから、虚空に向かってひとりで喋っているような感覚だったし、人が来ては消えていっての繰り返しだったので、会話力を伸ばせたかというと何とも言えないです。
それでも、続けているうちに毎回来てくれる子が少しずつ増えていくのが、カフェで常連さんがついたときのようで嬉しかったし、配信におもしろさややりがいを見出せそうになったころにいまの事務所から声がかかって、IRIAMで配信活動をすることになりました。
喫茶「珈龍」オープン
―IRIAMで活動することになって、何か準備されたことやこだわった点などはありますか?
いちばんのこだわりは、配信の場を自分のお店に見立てて、喫茶「珈龍」と設定したところです。
昔からずっと「誰かの居場所になりたい」と思ってて。珈龍しずるの枠が、誰かにとっての居場所、家や職場に次いで大切なサードプレイスになりたいなって。いちばんというか、それが唯一のこだわりですね。
癒しと楽しさでお客さまを包み込むような喫茶店づくりって、リアルでめざしていることと同じで。だから、キャラも等身大で、人目を引くようなおもしろみや斬新さがないことは配信の世界では不利だとわかっていたけれど、僕はそこで勝負するんじゃない。
IRIAMの世界でも、ふと喫茶「珈龍」に興味を持って、扉を叩いてくれたお客さまを丁重にお迎えして、僕のことや店の雰囲気を知ったうえで、仲良くなったり常連さんになってもらったり。そういったステップをちゃんと踏みたいと思ったから、枠回りとかもしなかったんです。
というのも、同じ事務所のライバー同士や回った先でのつながりに依存して、一部にしかわからない内輪話で盛り上がっていたら、初めて来店されたリスナーさんたちはきっと居心地が悪いですよね。だから、初配信に誰も来ない可能性も覚悟のうえで枠回りはしないと決めて、人数に関係なく、来てくれる方を大事にして自分の店をきちんと育てていく道を選択しました。

はじめての常連さん
―結果、開店初日はいかがでした?
初配信が近づくにつれて、不安と緊張が募るばかりだったんですけど、その割に「227人入室耐久」とか掲げちゃったもので(笑)。のんびりまったり楽しく配信しながらも、そこは意地でも達成すべく、11時間かけて何とかクリアしました!
目標達成したことに加えて、そこで出会って、長時間ずっと寄り添ってくれた子たちがその後も常連となって、新規のお客さまを一緒に迎えてくれたり、会話を広げて盛り上げてくれたり。いまでも支え続けてくれていることが、感謝ということばでは言い尽くせないほどありがたいし、僕の誇りでもあります。
お祭り騒ぎの初日が明けると、しばらくは同接が10人に満たないくらいのまったり営業だったのですが、そういった固定メンバーが着実に増えてきて。さっそく常連さんができたことが嬉しかったし、この子たちに喜んでもらいたいという一心で日々カウンターに立ってました。

店主メンテのため臨時休業いたします
―そうした日々の積み重ねでお店の経営も安定して、順調にランクアップされていった感じでしょうか。
周りからはそう見えたかもしれませんし、実際ありがたいことにランク帯は上がっていったんですけど。僕自身については決して順調というわけではなかったです。
大事なお客さまからのニーズを最優先するあまり、「こんなセリフを言ってみて」みたいないろんなリクエストにとにかく応えるっていうのを続けてたんですけど、ある日ふと、これは自分のめざしてたコミュニケーションじゃないぞ。ただギフト欲しさに目先の要望を満たしているのと何ら変わらないじゃないかって。一人ひとりがどういう人なのかをしっかり把握することが大事だし、僕のこともきちんと知ってもらわなきゃダメだ。そもそもみんな何が楽しくて、僕の何が好きでどこが嫌いなのか。そこが見えていないと本当の感情は動かないし、真のファンにはなってもらえないって気づいたんです。
それから数週間はほぼ雑談のみで、何か企画をやるとしてもギフトはなしって設定にしたり、ファン鯖で配信に関する感想や意見をもらったり。日々の出来事を記録しては、みんなと一緒に大切な思い出を振り返ったりしながら、お互いの距離を縮めていきました。
それでもみんなの反応が薄いと、自分の思いが届いてないんじゃないか、自分のやってることが自己満足にすぎないんじゃないかと不安に駆られて。落ち込んだ挙句、泣きながら弱音を吐かせてもらったこともあります。まいにち続けてた配信も、数日間休止しちゃいました。
まったく情けないエピソードですけど、おかげで喫茶「珈龍」のあり方についてみんなと考えられたし、自信を持って前を向くことができました。ただ、今後配信でネガティブな涙を見せることは二度とありません!
一日の終わりにまったりと
―休止の前後で変わったことがあれば教えてください。
単純な変化でいうと、僕の仕事の都合で開店時間が変わりました。いわゆるゴールデンタイムを意識して営業していたのが、いまの22時を主軸とする遅めの時間帯に移動したことでリスナー層が変化して、30代とか40代の大人のお客さまが増えました。
主婦の方やお勤めの方々が、一日の終わりに少し息を抜いてゆったりと過ごせる時間にしたかったので、喫茶「珈龍」の雰囲気も自ずと変化しました。わかりやすいところでは、BGMを変えました。以前はポップな感じの、聞いていて楽しくなるような曲が多かったんですけど、いまはどちらかというとチルい気分というか、リラックスして落ち着ける、静かすぎないけど楽しすぎないくらいの音楽を使うようにしています。
BGMのこだわりとしてはもう一つあって、僕、店の音楽は最低一年くらい同じものを使うと決めてるんです。いつ来ても同じ音楽が聞こえてくる安心感もあれば、ジングル的要素というか、慣れた音をきっかけに日常から非日常への切り替えがしやすい。喫茶「珈龍」を訪れる人に少しでも居心地良さを感じてもらえればなって。
一方で、飽きられないようメリハリの効いた配信も意識しています。
お客さまが大人層になったことで、僕が安心してふざけられるというか、いじられやすくなったというか(笑)。演出の幅も広がって、エンタメ性が上がったんじゃないかと!
僕個人の変化としては、配信歴を重ねて「ご長寿ライバー」の仲間入りをしたころから、事務所の交流会に多く参加するようになったり、おこがましいことに事務所内のライバー講座に講師として登壇したり、デビュー準備中の方の質問や相談に乗ったりと、いろんな関わりが増えましたね。

最後はポジティブに

―進化した喫茶「珈龍」のいちばんの魅力というと?
ひとえにお客さま同士の仲の良さです!
何ならリスナーさんの誕生日を祝ってギフトが飛び交うこともありますから。僕がおもしろいかどうかなんて関係ないんです(笑)。
まじめに話すと、ライバーとリスナーだけじゃなく、リスナー同士でも尊重し合う環境が整っていて、一人ひとりの何気ない話もみんなでちゃんと聞く。誰かが「こんなことがあって大変だったんだ」って話をすれば、「そんなことがあったの?」「すごいね、よくがんばって乗り越えたね」って続々コメントが寄せられる。常連組に限らず、コメントしたのが初見さんだったとしても同じというか、初見さんであればさらに温かく見守るような感覚で、安心して過ごせるよう絶妙にフォローしてくれる。
ありがたいことに、みんなの喫茶「珈龍」を大切にしたい、守りたいという気持ちの強さが自然とそんな流れを生み出してくれました。
僕自身が気を付けているのは、一人ひとりのコメントの「表情」。顔の表情こそ見えないけれど、コメントに込められた感情を色や温度でとらえるような感覚で、その子がどんな気持ちで打ったのかを瞬時に想像しながら拾って、答える。さらに、それが少しネガティブな寒色系のトーンだったら、十分共感して読み上げつつも、最後にちょっとした「軽口」というか、場が和むような一言を添えて、ポジティブに変換するよう心がけてます。
僕が話すときも同じで、ライバーは顔が見えるといっても表情の動きは限られているので、声色や抑揚できちんと伝えること。そのうえで、どんな話の内容だったとしても最後は明るく、みんなが気分をリフレッシュしてあしたに向かえるような環境づくりを意識しています。
僕にできること
―珈龍さんの今後の目標や、喫茶「珈龍」の展望について聞かせてください。
ひとつ、前々からやりたいと思っていたLive 2Dの実装がもう少しで叶いそうなんです。
声で伝えるのが大前提だとしても、細やかな表情でみんなと話せれば、一層お互いの距離は縮まるから。みんなともっと近く、ずっと長く一緒に、穏やかに過ごせる居場所として喫茶「珈龍」を進化させていきたいと思ってます。
あと、僕個人としては、二年半以上の配信経験をベースに、さっき話したライバー講座をはじめ、周囲に何か還元できることがあれば積極的に取り組んでいきたい。僕には残念ながら恵まれた才能もなければ、これといった強みもなくて。あ、もちろんプロフィールや固定ポストとかではめちゃ強気な発言をして自分を鼓舞してますけどね(笑)。決して選ばれた人ではないから、僕のやってることって再現性が高いんです。
人が言われて嫌なことを言わないとか、小さな「ありがとう」を大切にするとか、ごく当たり前のことだけれど、それらを日々繰り返し積み重ねた結果、いまではこんなところにいさせてもらってる。でもこれって、誰でもまねできるものだから。僕のやり方を伝えることで、困ったり迷ったりしているライバーが少しでも救われるのと同時に、おこがましい言い方にはなるけれど、前向きなライバーさんが増えていって、IRIAMを楽しむリスナーさんが嫌な気持ちになることも減ってくれたら嬉しいなって。

目の前のリスナーさんを大切に
目の前の
リスナーさんを大切に
―私たちスタッフも、ユーザーのみなさんが自由に自己表現を楽しみながら、ご自身にとっての温かい居場所を見つけられるよう、これからも全力サポートしてまいります。
先ほどいろんなご助言を伺ったばかりですが、ほかにも普段から新人ライバーさんにアドバイスされていることがございましたら、最後にお聞かせください。
よく準備中の子たちに言っているのが、雑談で話すことがないからとりあえず企画や歌枠をやっておくか、みたいな発想はやめましょうってこと。もちろんリスナーさんからリクエストがあってやっていることならまったく問題はないのですが、誰も求めてないうえに、自信もスキルもないなか、苦し紛れに歌ったところで何の解決にもならないどころか、無理だけが募って余計に自分を追い詰めてしまうから。
雑談に行き詰ったときは、まず自分の強みだと思っているものと自分が求められているものとを一旦整理してみてほしい。よくわからなければ、目の前にいるリスナーさんにたずねてみてください。
それ以前に、リスナーさんとの会話のきっかけに困っているなら、その子のプロフィールを見て、いちばん熱量を感じる一文を見つける。名前へのこだわりなんかでもいいんです。その子がいちばん触れてもらいたそうな一面を、自分が広げやすそうな扉を探して開けてみること。
そうやって一人ひとりと向き合い続けていれば、自然と会話は弾むようになるし、あなたの配信を心から必要としてくれる人が絶対に見つかります。
それでも何かの壁にぶつかって、前に進む気力がなくなってしまったときは、少しだけ後ろを振り返ってみてください。いろんな思い出や楽しかった日々、IRIAMでしか紡ぐことのできなかった、あなたとリスナーのみなさんとの物語を読み返してみてほしい。あなたにしか描けないストーリーがあることを決して忘れないでください。
それでもまだしんどければ、どうぞ喫茶「珈龍」を訪ねてください。のんびりと心が落ち着く空間で、おいしいコーヒーを片手に一息ついてみませんか? 自然と前を向けるようになるまで、僕や常連のみんなと、とりとめもない話をして楽しい時間を過ごしませんか?
ご来店を心よりお待ちしています。


