INTERVIEW


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戌鳴茶壱Inunaki Saichi

いぬなきさいち。3年E組担任の現役社会科教師。IRIAMデビューは2023年11月。相棒の羽犬・官兵衛(かんべえ)とともに、持ち前の巧みな話術で皆を巻き込む楽しい課外授業のような枠は、まいにち朝5時から開始。たまに昼夜の特別授業も開かれる。

電車広告で見かけた入試問題を夢中で解いた経験はないだろうか。

現役教師ライバー・戌鳴茶壱の朝枠もそう。ありふれた日常のたわいない雑談を楽しんでいるつもりが、ふと繰り出される問いかけについムキになって挑み、答えにワクワクする。
大いに子供心をくすぐられ、大人心もすっかり満足して一日のスタートを迎えるのだ。

さて、あすはどんな〝授業〟になるのか。早起きが楽しみでしかたない。

先生の声は配信向き♡

―まず先生が配信を始められたのはどういったきっかけだったのでしょう?

リアルでも教師なので、生徒たちから日々いろんな情報が入ってくるんです。配信に関しても、あるとき生徒が「先生、これ知ってる?」って感じで、YouTubeで人気のVtuberさんの配信に触れたのが最初です。

見ていたら「先生って配信に向いてるよねー」とひとりが言い出したのを皮切りに、そこから「もし先生がVtuberだったらこんなキャラだ」みたいな話がどんどん展開していって。
ちなみに向いてる理由は「一般的な男性ライバーより声が高めでうるさいから」だと(笑)。「人気の男性Vtuberは俗に言う<イケボ>が多いけど、先生の声質とトーク力があれば別路線で絶対にいける!」って力説してくれて。

とっさに「やるわけないやんか」とは返したものの、どこかで興味を覚えたのと、声を評価してもらえたのが初めてで、素直に嬉しかったんですよね。自分の「高めでうるさい」この声が生きる世界があんのかって。

それで、自分の興味はさておき、生徒の投げかけに何らか行動を示したかったし、将来生徒がVtuberになりたいと進路相談を受けたときにきちんと答えられる素地を作っておきたくもあったので、まずはやってみようじゃないかと。

とはいえ右も左もわからない世界で、機材も時間もなし。ただ教師という職業柄、一方的に話すことには慣れてるし、雑談も得意。そんな条件にはまるプラットフォームを探していて、スマホひとつで配信できるIRIAMにたどり着いたんです。
速攻で事務所を探して、夏休みに入ったタイミングで面接を受けて、合格できて......2カ月ほどの準備期間を経てデビューって感じだったと思います。

自分なりの正解を導き出す

―配信を勧めるにも、きちんと根拠を示される生徒さんが優秀すぎてびっくりです。

「さすが俺の教え子!」と言いたくなるくらい、本当によくできた生徒たちです(笑)。
ただ実際やるとなったら準備すべきことが満載で、けど動ける時間は限られて。じゃあどうすると自分なりに考えて、ベースは時間を選ばないXを中心にコツコツ発信しながら、リプライで丁寧なコミュニケーションを重ねていくことに注力しました。

たとえば「茶壱」という名前もあって、定期的に抹茶スイーツの画像をアップしてました。抹茶スイーツって老若男女関係なく好きな人多いし、お互い話しやすいでしょ? すぐに親しくなれるんです。

しかも枠でのコミュニケーションが一対多なのに対して、Xは一対一だから、リプライでの何気ないやりとりを通じて距離がぐっと縮まる。実際、初配信に来てくれた人の8割がXつながりでした。
それにXなら日中のすきま時間を生かせるし、1分あれば5人に返せますからね。効率がいいんです。

もちろん時間があるときはできるかぎり多くの枠を回って、勉強させてもらいました。雑談で場を回すには「相棒」がいたほうがいいなとか、私にはここまで作りこんだ演出は無理だなとか。同時に、枠主さんが話を振りやすいコメントや盛り上がりそうな話題を提供して、自然と仲良くなれるよう考えて行動してましたね。

とはいえすべてが自己流だし、うまくできないことも多くて不安もあれば、直前までバタついてもいたんですけど、ふたを開けてみれば何とかで。初日は「さいち」をもじった「312人入室耐久」企画に挑戦したのですが、それがたったの3時間で達成してしまうくらい、たくさんの人が来てくれたんです。
ようやく「自分がやってきたことは無駄じゃなかった」と実感できて。それがIRIAM最初の成功体験です。

シンプル・イズ・ベスト

―実際に配信されてみていかがでした?

普段の授業と変わらない感覚でした。リアルとVとの違いはあっても、自分軸でいえば変わらず一社会教師だし、キャラの衣装も私物ですしね。配信もまいにち「おはよう、飯食った?」で始まってと、言ってみれば日常の延長みたいな感じです。

現実的な話をすると、特定のキャラや世界観を設定してうまく回していく力量や時間的余裕がなかった。まずはできることに特化しながら、余分なものを〝引き算〟していって、長く配信を続けるためにとことんシンプルに徹したのが「戌鳴茶壱」です。

そうはいっても皆Vtuberには非日常的なエンタメ感や凝った演出を期待するだろうなと。せめて人気企画くらいさらっておかねばと、当初は「セリフ枠」や「語尾変枠」に挑戦したこともあったんですよ。けどこれが驚くほどウケない(笑)。平常スタイルのほうががぜん盛り上がるんです。みんなも、茶壱と雑談するのが楽しみで来てるんだと言ってくれて、そうなんかと。

一般的に良しとされる手法を踏襲しても、自分の枠では通用しないんだ。みんなは私に「ライバーらしさ」を求めてるんじゃないんだ。やっぱり「等身大」の戌鳴茶壱でいこう。自信をもって「身近な」配信でいこうと、ここで確信できた感じです。

社会は楽しいんです(力説)

―日々の配信で大事にされていることはありますか?

枠のつくり方でいうと、うちの枠は朝5時からと早朝なので、皆さん何かとバタバタされてる時間帯なんですよね。だからラジオ感覚で気軽に聞けて、聞いてて楽しい配信を心がけています。

たとえば「皆さんが払ってる大切な税金。ある動物の飼育のためにめっちゃ使われてるって知ってる?」とか聞くと、ながら聴きしててもちょっと気になりません? もっと知りたくなりますよね。

そんな感じで、どんなテーマでもいいんです。身近な話題を持ち前の知識やデータをないまぜにしながら膨らませて、社会を楽しめるとっかかりというのかな。楽しんで聞いてるだけでも社会の知識が記憶として残る。記憶に残るから誰かに話したくなるし、話すことでより記憶に刻まれて本物の知識になるという。見事な好循環が成立するんです。

だからリスナーさんが「子どもに教えてあげよう」とか「社会って意外とおもしろいな」とか言ってくれた日には、モチベーションが爆上がりするんですよね。
特に嬉しいのが「中高のとき茶壱が先生だったらよかったなぁ~」ってやつ。最高の褒め言葉ですね。教師冥利に尽きます!

皆と修学旅行に行きたいんじゃぁ!

―ちなみに、日々の配信が「授業」なら、イベントは「学校行事」みたいな感じですか?

ほんとにそのとおりですね。最初のイベントがまさにです。
トップバナーチャレンジの前しょう戦として参加した「限定プライズチャレンジ!-秋巡り-」なんですけど、特典が京都の東寺風のイラスト背景で。これを私の立ち絵と組み合わせたらまんま修学旅行になるよね。よし、みんなで京都に行こう! と、不慣れな半人前教師と出来立てほやほやの「3年E組」のみんなが一丸となって挑戦して。念願の1位をいただけて一気に結束力が高まりました。

その勢いのままトップバナーチャレンジも11位で走り切れて、クラス内もすっかり仲良くなり、よっしゃこれから皆でたくさん思い出をつくっていこうぜ! って矢先、受験シーズンというとんでもない〝リアルガチイベ〟と向き合うことになりました。

その2カ月ほどの期間はどうにも立ち行かなくて。余裕はないし、せっかくAランク帯まで押し上げてもらったのをBランク帯に落としてしまって、もう挫折ですよね。一時は配信をやめることも考えました。
そんなとき、リスナーさんたちが「この時期忙しいことはわかってるから無理しないで」と気遣ってくれて。こちらが何も言わなくても、現役教師である私の状況を当たり前に察してくれてることにものすごく救われて。逆に励まされて、絶対に朝枠だけはやり続けようと腹をくくれました。

その時期を乗り越えてからは、再びイベントにも参加しはじめました。勝ち負けやランクキープに関係なく、みんなと盛り上がれる〝学校行事〟はやっぱり楽しいんですよね。
皆で無理のない計画を立てて、走って、筋トレして。ごほうびとして、京都や大阪に修学旅行に出かけたり、はんなりと侘び寂びある空間で抹茶と和菓子を楽しんだり。みんなと濃くて甘い思い出を積み重ねています。

がんばってる先生への贈り物

―配信時間に制限があるなか、イベント時にはどのような工夫をされていますか?

ガチイベでは普段やらない夜枠をやってます。
私、お酒が好きなもので、イベントのときくらいは皆で夜通し酒でも酌み交わそうじゃないかと。こればかりはリアル生徒とはできない、配信だけの特別なお楽しみですね(笑)。

相棒の官兵衛も大活躍します。
彼はしゃべれる羽犬なので、ガチイベのときは大吟醸を飲みながら単独で配信してます。
官兵衛ファンの方、多いんですよね。愛犬に官兵衛のコスプレ衣装を着せて楽しんでくれる方もいらっしゃれば、アクキーなんて私のより断然人気で。ご主人さまとしてはあまりおもしろくない事態ではあるのですが(笑)、それでも皆様にかわいがっていただけるのはありがたいかぎりです。

―イベントで記憶に残っている思い出はありますか?

イベント中ではないのですが、最高に嬉しかった出来事をお話ししてもいいですか?

そもそもうちの枠って、お子さんのいるリスナーさんが多いんですね。だから配信中にも「うちの子がこんな質問してるけど、教えてもらえる?」とか「いま息子がさいちに手を振ってるよー」みたいなくだりがよくあって。直接のやりとりはなくても、こちらが〝存在〟として認識できてるお子さんたちが何人かいるんです。

それがこの夏「えきポス!-JR大阪駅(大阪府)-」の広告が掲載されたとき、とあるママさんリスナーがお子さんたちと一緒に会いに行ってくれて、私と撮った写真を記念だと言って送ってくださったんです。
そこにはいつも話にだけ登場していた〝仮想〟の子らが、めっちゃいい笑顔で写ってて。それを見た瞬間、自分の声がその先にいる人にしっかり届いてるんだってことを不意に実感できたんですよね。

波及効果とまで言ったら大げさかもしれないけれど、枠の壁を超えて、その先々まで伝わってるんだってことを可視化してもらった感じで。「ライバーやっててよかったー!」って、めちゃくちゃ感動しましたね。何より尊いギフトでした。

―子どもたちには茶壱さんが教育番組の人気キャラのように映っているのかもしれないですね。そんな先生の今後の目標を教えていただけますか?

IRIAMでめざしていることは三つあって。
まず一つ目が、S3ランク到達。雑談しかできないライバーでも、IRIAMの最高到達点であるS3に行けるんだってことを証明してみせたい。それを見て勇気づけられて、自分もIRIAMでがんばってみようと思ってくれる人がいるはずなので。そのためにも臆せずめざし続けたいです。

二つ目は、自分の枠のリスナーさんには社会科を好きになってほしい、ってこと。ただ点数が悪かったとか暗記が苦手とかだけで嫌いになった人も多くて、実際3年E組の9割5分が社会科は嫌いか苦手だという切ないデータも存在します(笑)。
でも社会って日常にまつわる学びだから、知れば知るほど毎日が楽しくなるはずなんです。配信を通して少しずつでも「社会っておもしろいな」「おとなになって学び直すのもいいもんだな」と感じてもらえるよう精進します。

最後は、継続すること。
めまぐるしい日々ではあるけれど、教師とライバーという両輪があるからこそうまくドライブして、毎日新鮮味があるんです。学校だけだとそれが失われてしまうから、自分のためにもやめたくないなと。
それと何よりみんなのために。この先いま以上に時間が取れなくなったり、ランクを落としてしまったりするかもだけど、望まれるぶんにはずっとみんなの担当教師でいたいなと思ってます。

好きが世界を広げる

―それでは最後に、ライバーを志す皆さんにメッセージをいただけますか?

IRIAMは、雑談しかやってない、配信時間の限られたライバーでもSランク帯に行ける世界です。いくらでもやりようはあるし、がんばり次第で上をめざせます。
かといって、皆がランク帯やイベントの勝ち負けにこだわる必要はないし、ライバーってこういうもの、という固定観念に縛られることもありません。

私の場合は「社会」になりますが、とにかく自分の「好き」を包み隠さず、堂々と楽しんでほしい。どんなものでも、自分の好きなもののことや、好きだという思いを真摯に、丁寧に伝え続ければ、ついてきてくれる人がきっといるから。
いや、うちの枠のように、たとえ9割以上の人に嫌いだと言われたとしても、じわじわ好きになってもらえるよう一緒にがんばりましょう!

そんなわけで、社会科嫌いの皆さーん! 朝の準備に忙殺されている皆さまー! わが3年E組への編入を心よりお待ちしております。

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