INTERVIEW


オウル・ノーグOwl Nog

ハープの弾き語りを中心に歌や即興語りで皆を楽しませる、旅するライバー。演劇やマーダーミステリーに精通し、リアルライブなどの自主企画実績も多数。IRIAMデビューは2022年5月。

IRIAMでは個々の配信を「枠」と称するが、オウル・ノーグを何かの枠に留め置くことなど到底できない。バーチャルという果てなき世界に生きながら、なお狭しと異次元空間に新たな表現の場を求めるのだから。そこで出会う人びとをハープの音色と巧みなシナリオで引きつけては巻き込み、気づけば舞台を彩るプレイヤーとして輝かせてしまうのだから。
オウル・ノーグという旅人に触れると、ライバーの可能性は無限だと改めて思い知らされる。いったいこの先どんな景色を見せてくれるのか、心が躍る。

吟遊詩人が再び旅立つとき

―配信を始められたきっかけから伺えますか?

Vライバーとしてではないのですが、そもそもは〝中の人〟が演劇などの表現活動をしていて、舞台の弾き語りで使えそうなハープの勉強を始めたことにさかのぼります。ハープを練習しながらうまくなっていく過程を見せたら楽しんでもらえるかな、興味を持ってくれる人と出会えればいいなと思い、リアルでライブ配信を始めたのがきっかけです。

いろんなプラットフォームを試しながら活動を数年続けたのですが、いつしかアイドルやモデルさんなどの配信が増えて視聴者のニーズが変化してきたのと、仕事が忙しくて時間が取りづらくなった時期が重なり、配信活動を休止することにしました。

その後長らく配信からは離れたままだったのですが、仕事の関係でいまライバーとして所属している事務所の代表と出会って。もともとボードゲームやマーダーミステリーなどのコンテンツ開発や制作をしている会社なので、私はシナリオライターやディレクターとして携わっていたんです。

それで会社が新たにVライバー事業部を立ち上げるとなったとき、興味があれば誰でも手を挙げてよしとの声がけがあったので、ひさびさにやってみようと思い立ってチャレンジしたというのがIRIAMデビューの経緯です。

「夜の果てを目指して」

―ライブ配信といってもリアルとは異なる点も多かったことかと思われます。デビューまでに準備されたことがあれば教えてください。

ライバーとしての準備は音楽制作から始めました。ハープを弾くキャラでいこうと決めていたので、やはり音楽は最大のフックになるし、テーマ曲や配信用BGMにはとことんこだわりたかったんです。

それと枠回りですね。先輩ライバーさんたちからいただいたアドバイスはとても参考になりました。たとえば、デビュー前でもプロフィールに自分のキャラの特徴である「ハープ弾き語り」と入れておくこと。それが目を引いて、訪れた先で声をかけていただくことも多かったです。

キャラに関しては、オウル・ノーグは穏やかで丁寧な語り口調という設定でいたのですが、中の人がノリと勢いで突っ走るタイプなので、わずか数日で破綻しました。
ただIRIAMでは必ずしも〝完璧なキャラ〟でなくていいし、抜けている部分やON/OFFのギャップを楽しむのもまた味わい深いですよね! って、半分言い訳ですけど(笑)。

あと私の場合、もともとの舞台活動やゲーム制作などを通して自身の存在やハープ演奏ができることが周囲に知られていて、その事務所からハープを弾くライバーがデビューするとなった時点でほぼ身バレしたことも大きいです。中の人を知ったうえで枠に来てくれる方が多いので、あまりキャラをつくり込まず、けれどどこか夢が持てる部分はちゃんと残すって感じかな。キャラ設定や世界観については自身の制作者やディレクターとしての経験や視点を生かしながら組み立てていきました。

健康的で持続可能な枠づくり

―実際にIRIAMで配信してみていかがでしたか?

初配信では相当テンパって、画面表示にまるでついていけなかったり、スクショを撮ろうとして電源ボタンと押し間違えては何度も枠を開き直したり、いろいろやらかしました。

ただ皆さんはそれも初配信の醍醐味だとおもしろがってくれたし、オウル・ノーグの新しい門出をたくさんのコメントやギフトで祝ってくださいました。これからどんな景色が見られるかわからないけれど、とにかくやってみよう。この未知なる世界での旅を心ゆくまで楽しもうと心に誓いました。

トップバナーチャレンジで10位に入賞させてもらったときも本当に嬉しかったです。
そこで少し手ごたえを感じられたのと同時に、これから長く配信を続けていくためにも、まずはリスナーさんを増やして、みんなが無理せず日々健康的に楽しめる枠をめざそうと思いました。

かと言って、一気にリスナーさんを増やす秘策があるわけでもなく、頭の中でいろいろ考えながらまずは目の前にあるイベントに向き合って、みんなと一緒にIRIAMでの〝旅〟と日々の景色を満喫していました。

巧みなシナリオで
奇跡の大逆転勝利へ

―一般的に「旅から学ぶことは多い」と言われますが、オウルさんも旅を続けるなかで秘策に代わるような発見や変化はありましたか?

そうですね、外部企画の月間のファンバッジ獲得者数を競うイベントに参加したとき、そこで勝つために取り組んだことが大きな学びというか、リスナーさん、特に同接数を増やすという当初の目標達成へと導いてくれました。

たとえば、ストレートに「バッジ耐久」と掲げると初見の方に重い負荷がかかって入室しづらいかもしれないと考えて、サムネイルなどは「初見耐久・来てくれたら即興でハープ演奏!」として、一曲聴いてくださった方にだけ企画の趣旨を説明するという流れにしたこと。結果それで格段に初見さんや同接人数が増えました。

あと「勝ちきる」ことにも注力しました。それまでに自分が参加したIRIAMのイベントで終了直前に逆転負けするパターンが何度か続いたこともあって、今回こそは「勝ちきるぞ」といつも以上に綿密な作戦を立てたんです。
それで皆にファンバッジ獲得をできるかぎり月末、可能なら最終日の夜まで待ってもらって上位を競うライバルたちを油断させつつ、こちらはこちらで着実に積み上げていく。そして静かに最終日の一発逆転のときに備える、という勝利のシナリオを描きました。
初見の方も作戦に興味を持って定期的に来てくれるようになったし、リスナーさんたちはその逆転劇に演者として参加するような感覚をノリノリで楽しんでくれました。

あとこれは作戦ではないのですが、私が喉を傷めてしまって声が十分に出せず、派手な企画で盛り上げるようなことができないという背景もあったんです。それで無理なく勝てる演出を選ぶしかなかったのですが、結果それらが功を奏して最終日に95個のファンバッジを獲得。台本どおり逆転勝利を決めることができました。

立ち止まることで見えた
本当に大切なもの

―シナリオどおりのゲーム進行、お見事です!
ただ「喉を傷めていた」というお話が少し気になりました。

声の使いすぎや発声法の問題で、完全に喉をつぶしてしまいました。演劇や声優のお仕事にはつきものですし、IRIAMでも悩まれている方は多いですよね。
これについてできるアドバイスは「無理せず病院に行きましょう」しかないです。幸い私は近くに声専門のクリニックがあるので、活動内容やスケジュールのことなども含めて細かく希望を伝えながら治療を進めています。

休止するとリスナーさんが離れちゃいそうとか、いまあるコミュニティランクを手放したくないという気持ちはよくわかります。そういう私も、手術予定に合わせてひと月配信を休むとなったときに自分史上いちばん高いコミュニティランクにいたので、まったく気後れしなかったわけではないです。
それでも、戻ってきたときに「おかえり」といって迎えてくれる人の存在を信じる。がんばればすべて取り戻せると自分を信じる。一時的な休止でライバーとしての価値が下がることはないから、恐れすぎず、自分を大事にしてほしいなと思います。

―同じ悩みを抱える皆さんには心強いお言葉になると思います。

実際のところコミュニティランクは下がりました。でもそれは休止だけが理由なのではなく、自分の意識が変化したから。一度落ちるとランクキープすることへの執着がなくなり、肩の力も抜けて初心に帰れたんです。私にとっていちばん大事なのはライバー活動を長く続けることで、毎日でなくともやめずに、オウル・ノーグという旅人が存在し続けることが大事なのだということ。気持ちも一層ポジティブになりました。
オウルはIRIAMという世界で旅を続けながらいろんな人や見知らぬ景色に出会って成長してきたし、これからもそうしていきたいと思っています。

ただしオウルは現実的にもめちゃくちゃ旅に出るんですよね(笑)。ハープ弾きだけじゃなく、マーダーミステリーなどのシナリオ制作や運営に携わっているので、旅先からの配信はもはや平常だし、イマーシブシアター(体験型演劇)でホテルに一カ月缶詰なんてこともありました。

でもIRIAMはどこからでも配信できるし、リスナーさんたちにも飽きずに楽しんでもらえたり、お礼品などに出かけた先で撮ったチェキやおみやげものを採用したり。旅多き日常もオウルらしい枠づくりに一役買ってくれています。

リアルとバーチャルのあいだ

―旅のおともにIRIAM、嬉しいかぎりです(笑)
旅先でTwitterにアップされる写真がまたユニークなんですよね。

身バレしているからできるというのもありますが、リアル写真やアナログな演出が意外と皆に評判が良く、いわゆる「ガチャ」枠などでもリアルに10面ダイスを振るとか。物は見えないけれど、音や言葉を聞いて想像してみてください、って(笑)。

SNSでの発信も旅先での報告だけではなく、先行してTwitterに「○○用のネタ」としてインパクトある写真を上げておいて、配信のなかでそれについて話すとか。早めに上げておけば当日までにみんなが見て情報共有ができるのはもちろん、個々が拡散してくれることで予想外に盛り上がったり、人が集まったりもします。

―「当日までシークレット」というアプローチとは逆転の発想でおもしろいですね。告知から配信当日までの展開が、さすがシナリオディレクターだなと。

思いつくまま、ごく自然にやっていることではありますが、それが長年の経験で培われた発想であれば嬉しいですね。
活動一周年記念で開催した「#オウルの晩餐会」では、オウルの指示に従って皆に晩御飯の食材を買ってもらい、ぶっつけで謎のメニューを一緒に料理していくという企画をやりました。食材を見ればすぐにお好み焼きだとわかるのですが(笑)、それでもみんな楽しんでくれて、それぞれ完成した写真をTwitterに上げてくれました。

またみんなからは「オウルさんには内緒でこっそり集めような!」というネタバレ定期で延々告知してくれていた寄せ書きをいただきました。この旅人にして、このリスナーあり。一周年を彩る、最高の思い出になりました。

みんなとなら
どんな旅にでも出られる

―楽しそう。リスナーさんたちのノリの良さや枠の一体感が伝わってきます。

もともと大人の方が多いのですが、さらにリアルな私を知っていたり、舞台を見に来てくれたリスナーさん同士がリアルでつながったりすることで、お互い距離感がつかみやすいことも大きいと思います。配信に限らず、文字だけのやりとりだとどうしても伝わりづらいし、行き違いが生じがちですよね。

あと、枠の方向性もあるかもしれません。自分がファンタジー好きなので、音やキャラはそういう世界観にいますが、つくっている人は現実的だよー、皆に喜んでもらえるキャラづくりをしているんだよーと、繰り返し伝えているんです。
中の人なんていない派の人たちはがっかりしますよね。ただそれも理解したうえで来てくれる人、そういう人たちが相手だからこそ話せるという心理的安全性があるんですよね。

というのも、私自身が「ガチ恋」に苦手意識があって。リアルで昔、距離感がバグってしまったファンの方とのやりとりで自分のメンタルがやられた経験があるんです。お互い本当に辛くて、残るダメージも大きい。もうそういうのは絶対避けたくて、あまり夢を抱かせないようブレーキをかけているというのもあります。

もしそれでもダメだったときには直接言います。ただ頭ごなしにやめてというのではなく、きちんと理由を話す。相手には基本悪気はなく、良かれと思ってやっている場合がほとんどなので「応援したいという気持ちはありがたいけれど、こういう行為だけはダメだよ」って、ちゃんと説明するようしています。

―オウルさんはライバーさんたちとも自主企画などでいろんなやりとりをする機会があると思うのですが。

そうですね、中の人ではなくオウル・ノーグとしてリアルライブなどを企画プロデュースしています。諸事情により現段階ではお声がけできるライバーさんは限られてしまうものの、最近ではIRIAMでの配信を審査対象とした公開オーディションにもトライしました。

企画自体は、オウルが何を提供することがリスナーさんに喜ばれるか。一枚の薄い幕を隔ててではあるけれど、リアルな世界でライバーとリスナーがつながることによってどんな感動を生み出せるのか。自分のこれまでの制作経験と演者としての感覚、そしてオウルというライバー視点を生かしながら、2.5次元とはまた違う境界突破のかたちを模索していきたい。いろんな人と出会って、共感して、皆と一緒にもっと広い世界へ飛び出していきたいと思っています。

―最後に、これからライバーになろうとされている方やリスナーの皆さんにメッセージをいただけますか。

ライバーをめざす方に関しては、まずはやってみること。新しいことを始めるのにはエネルギーがいるし、慎重になればなるほど準備が間に合わず、それを言い訳につい先延ばしにする。結果いつまでも始められずにいる。それだと何にもならないんですよね。

迷ったら前へ、半歩でもいいから前へ踏み出してほしい。旅と同じで、家で見ている2Dの画と実際の景色はまるで違うから。目や耳、肌で感じる空気、とっておきの経験や出会いは旅に出ないと得られないから。不安やトラブルもつきものだけれど、ダメだったらそのときに考えればいいし、いざとなれば相談できるミライの旅仲間がIRIAMにはたくさんいるから大丈夫です。

そしてリスナーさん、ちなみにうちの枠ではリスナーを「旅人」と呼んでいます。IRIAMの世界には見たことのない景色や未踏の地が無限のようにあるし、すてきな出会いを求めていろんな枠を探訪する様はまさに旅そのものなので。新たなご縁もたくさん生まれるし、日々発見だらけです。さぁ、みんなで冒険の旅に出ましょう!

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