INTERVIEW


兎月詩Uzuki Uta

歌と芝居とうさぎが大好きな女の子。配信の最初と最後に必ず歌う。雑談と歌が中心だが、いろんな種類の声を使い分けるセリフ枠や朗読劇などの企画も人気。深夜帯の配信では癒し系ボイスと美しいアカペラに寝落ちするリスナーが続出する。2021年9月デビュー。魂は舞台役者。

うさぎの背中を追いかけて不思議の国へと迷い込んだアリス。けれど兎月詩は自らこの魔訶不思議なバーチャル世界に飛び込んだ。そこでの冒険は彼女に一生忘れられない出来事や個性豊かな〝住人たち〟とのリアル以上に温もりある交流を与え、そしてミライへのさらなる可能性をひらく。
これは決して夢の中の話ではない。兎月詩は生き生きと輝き続ける。目の前の大切な人を楽しませ、喜ばせるために――

できることを追い求めて
飛び込んだ世界

―まずはライバーになろうと思われた背景について伺えますか?

私、魂が舞台役者で、演劇やダンスなどの芸術活動をずっと続けていきたいと思いながら、そのために不可欠な「ファンを増やす」という課題をなかなかクリアできないでいました。
ある日、私が常々尊敬している脚本・演出家の方が「あなたは声がいい。お客様やファンを増やしたいならゲームキャラの声など、何か声を使った仕事を始めてみれば?」とアドバイスしてくださったんです。ご助言自体はもちろん、声を褒めてもらえたこともとても嬉しくて、さっそく声を生かした仕事がないか探してみました。

けれど、一朝一夕にはそういう仕事に出合えず、さらには新型コロナウイルスの影響で予定していた舞台公演もなくなりました。それでこの一年はもう舞台などの活動をセーブして、セルフプロデュースに専念すると決めて、少しでもファンを増やせればとYouTubeやTikTokに動画をアップしはじめました。というかそれ以外にできることが見つからなかったんです。

そんなとき、知り合いを介してIRIAMで活動するライバーを探している方がいると聞きました。失礼ながらそのときはIRIAMを存じあげず、それ以前にバーチャルの世界そのものにあまり触れたことがなくて。
でも顔出し配信であればそれまでも何度か経験があったのと、配信なら声が生かせること。加えて、演者としてはお恥ずかしいかぎりですが、私は自分の顔にコンプレックスがあるので、顔を出さずに配信ができるならのびのびとできるかもと思ったんです。それで自分からやりたいと伝えたのがきっかけです。

素のままの自分で生きていく

―あまりご存じなかったバーチャルの世界に触れたときの印象はいかがでしたか?

思っていたほどの違和感はなかったです。私が役者をしているのもあるのでしょうが、キャラが動いている異世界というよりも、それぞれが思い思いのメイクや衣装をまとって自由に活動しているという印象でしたね。

だから実際に自分も「兎月詩」というライバーネームはあるものの、キャラ設定は特にないんです。そもそも私自身のファンというか、私という演者を好きでいてくれる人を増やすことが目的なので、別人ではあってはならないというのか。なので、素のままなんですよね。

それに、ライバーは舞台上に立って、リスナーさんたちにパフォーマンスを見せるようなイメージを持っていたのですが、IRIAMはそういう距離感や関係性ではないんですよね。顔を出さないだけで、人と人のコミュニケーションであることはリアルと何ら変わりがなくて。
質の高いエンタメを提供しようという気持ちは変わりませんが、自分の不完全なところもさらけ出してぶつかれるようになったことで、リスナーさんとの距離がぐっと縮まった感じがします。

リスナーさんのことをよく見て、みんなが退屈しないような空気や流れをつくるとか、間延びしないよう話題をいくつか用意しつつテンポよく進めるとか。そのあたりは普段の芸術活動とまるで変わらないです。

自分らしさにこだわる

―見せることには長けていらっしゃいますし、初配信もリアル配信と同じように進められました?

初配信は早くやりたいという気持ちと、ちゃんとできるのだろうかという不安とが半々でした。そこは舞台の初日と似ていますね。でも舞台なら稽古があるし、台本もあります。チケットの売れ行きで当日の入りもなんとなくわかる。配信はそうもいかないので。

一人でリハーサルのようなことをしたり、なんとなくプログラムを立ててみたりしながら準備していきました。雰囲気をつかむためにもいくつか枠を回りましたが、参考にするという感じではなかったですね。ほかの人がどうこうではなく、自分が何をやれば興味を持ってもらえるかが大事なので。

それで自分らしい配信や印象に残る演出を考えるなか、配信が始まっていきなり歌う人はいないかもと。そこから「歌で始まり、歌で終わる」というスタイルを思いつきました。実際、枠に人が集まるまでずっと歌って待っていたもので、来た人にはものすごく驚かれましたけど(笑)。

開始早々、みなさんがくださったたくさんのお祝いコメントすべてとはいかなかったけれど、歌いながらしっかり文字を追いつつ全力でお返ししました。もともと早口なのでレスポンスは比較的万全なのですが、それでも初日の勢いには残念ながら押され気味で。すべて一言一句漏らさずきちんとお礼がしたかったと、そこだけはいまだに悔まれます。

不安が期待感に変わるとき

―さすがというのか、舞台慣れされている方ならではの余裕を感じますね。

とんでもないです。まず当日に人が来てくれるかが不安でしたし、初日が明けてもその不安はまるでぬぐえなかったです。
初配信は特別な日ではあるし「初日聞きにいくからね」「デビューが待ち遠しい」と言ってもらえたり、気をつかって見に来てくれたりもする。けれどそのお祝いムードがなくなる二日目以降はどうなるかわからない。たとえ一人でも来てくれるだろうか、もし人が来なくても1時間くらいは歌っていられるかなとか、あれこれ考えちゃう感じで。

事前に席状況が読める舞台と違って、人が来てくれるかどうかという不安は常につきまとうものなので。きょうこそ人が来ないのではないか。何人くらい来てくれるのか。Twitterの告知に「いいね」がついたとしても、それがそのまま来てくれる人数ではないので。

あと、舞台だとよほどのことがないかぎり最後まで座って観劇されることが多いのに対して、配信はつまらないと思った時点ですぐに退出するのが普通です。だから飽きさせないよう、話が途切れないよう、手元にいろんなジャンルの話題や定番の質問事項などを控えておいて、いつでも対処できるよう準備してました。

ただトップバナーチャレンジ前くらいから、徐々にですが変化はあって。毎日顔を出してくれるリスナーさんがだんだん増えてきたり、バッジをとってくれる方やこの枠があって嬉しいと言ってくださる方など具体的に見える反応があったり。そのうち「日課になってきたよ」というコメントとともに、常に一定のメンバーがいてくれるようになって。

うちの枠ではリスナーさんのことを「兎達民(うたちみん)」と呼んでいるのですが、その兎達民ひとりひとりにきちんと向き合い、寄り添うこと。そして私自身が誠実に活動していけば、みんなついてきてくれるかもしれない。成長し続ける努力を怠らなければ、毎日楽しみに期待感をもって来てくれるかもしれない。
そうして配信を続けていくうちに、次第に「来てくれるかな?」の不安が「早く会いたい」の期待へと、少しずつ変化していきました。

リアルとつないだ先にあったもの

―兎達民の方々はトップバナーチャレンジ以来、数々のイベントはもちろん、リアルな舞台にも足を運ぶなどいろんな形で応援されていますよね。

そうなんです。魂の部分をカミングアウトするかどうかはずいぶん悩みましたし、公表したときはかなり緊張もしたんですけどね。やっぱり立ち絵の可愛さが好きで来てくれる人やずっと枠内の兎月詩だけを見ていたい人も多いと思うし、リアルとつなげてほしくないって人も絶対にいるはずなので。

さんざん悩みながらも、ファンを増やしたいという目的もあってデビューから3カ月後にカミングアウトしたのですが、そのときにはもうみんな薄々気づいていたというか、役者とは思わなくても歌とか声劇とか、何かやっている人なんだろうとは思われていたようで。意外とすんなり受け入れてもらえたばかりか、そういう目標を持って活動していることを知って、より応援したくなったという嬉しい声までもらえたんです。ただそういうのが嫌だって人は切り離してくれていいし、両方認めてとか理解してほしいとか強要しないことも繰り返し伝えています。

それでもコロナ禍が収まって、久しぶりに出演できた舞台には30人近い方が来てくれて、いつもと違って客席で楽しみながら応援してくれました。来られなかった人からも観たかった、次回出演時にはぜひ行きたいと言ってもらえて。嬉しかったし、改めてがんばりたいと思いました。

次の公演にはさらにたくさんの方が来てくれて、IRIAMのギフトの「花束」をモチーフにした花束を届けてくれたんです。別の舞台のときは、兎達民のみんなが観劇後に開催したオフ会写真を送ってくれて。ほんといつも嬉しいサプライズをくれるんですよね。

あとそのオフ会写真を見たとき、日ごろ見ているみんなのアイコンやコメントからうかがえるそれぞれのイメージや特徴と見事にリンクしたんですね。きっとこの人が○○ちゃんだ、みたいな感じで。

バーチャルでもリアル以上の〝体温〟を感じるような特別な体験だったと同時に、安心もしたんです。私は、兎月詩は、兎達民ひとりひとりとちゃんと通じ合えているぞって、ライバーとしての自信にもつながりました。




―「ギフト」モチーフの花束なんて、兎達民のみなさんの演出がまたすてきですね。

舞台を観に来てくれたり応援してくれたりするだけじゃなく、IRIAMでの活動に関してもいつも背中を押してくれます。
先日も「そもそも舞台役者としてファンを増やすために配信を始めたんでしょ? 名前を広めて、新しい仕事につなげるためにも雑誌掲載イベントとかに出たくないの? 出たいって言っていいんだよ」って言ってくれたんです。

これまではオリジナルプチギフトやオリジナル背景、うさぎに関するイベントなどに出ていました。入賞をめざすイベントに出るなら「皆のおかげで入賞をめざせるのだから、等しく枠内で楽しめるもの」を。「己を広める活動」はそことは切り離して自分自身で取り組むべきだと考えていたので、雑誌掲載や駅広告イベントは選んでこなかったんです。

それが兎達民の言葉で、IRIAMのリスナーさんや声優ファンの方々がよく読まれている雑誌なら、兎月詩が紹介されることでたくさんの人に喜んでもらえるし、ファンを増やして活動の幅を広げたいというそもそもの目標も叶うんだって気づかせてもらえて。ようやく参加を決断することができました。

イベントの選択だけでなく、普段の配信でもつい完璧をめざそうと悩んだり苦しんだりしている私に「もっと相談して。時にはわがままを言ってくれていいんだよ」と言ってくれる皆の存在は本当に頼もしくて。おかげで「ひとりでがんばらなくていい」という意味を身をもって実感できた気がします。
自分らしく、やりたいことや見たい夢に向かって踏み出していけばいいんだって、勇気をもらえました。本当にいろんな面で兎達民に支えられてます。感謝してもしきれないですね。

支えがあってこそ踏み出せる一歩

―もともとファンを増やすことを目的に配信を始められた兎月詩さんですが、それ以上に得られたものが多そうですね。

本当にそうですね。私はもともとネガティブ思考に陥りやすいんですが、兎達民たちが私の良いところを具体的に挙げてくれたり詳細に褒めてくれたりすることで、肯定できる部分が増えてきた。IRIAMと出会えたおかげで、自分を好きになれました。

自信も持てるようになって、前は人前で歌うことが怖かったのにいまでは喜んでもらえることが嬉しくて仕方ないんです。それでもっとうまくなりたい、もっと褒めてもらえるよう練習しようって気持ちが前向きになる。
芝居もそうで、いままで似合わないと思っていたジャンルにも勇気を持って挑戦できる。もしうまくいかなかったとしても、それをあざ笑うような人はいないからおもいきりぶつかれる。

ほのかな自信や何があっても受け止めてくれる存在があることによって、もう一段階自由にやれるんです。また、そのチャレンジ次第で兎達民たちを喜ばせることができる。みんなの幸せの一部に自分がなれることを誇りに思い、大切にしながら、臆せず前に踏み出し続けたいと思っています。

人生の転機になった
IRIAMとの出会い

―最後にこれからライバーになろうとされている方へのメッセージをいただけますか。

あの私、新人ライバーさんにめちゃくちゃ冷たいんです......
ほかのライバーさんたちはみなさんやさしくて、新人ライバーさんが枠に来ていろんな質問をされても丁寧に答えてあげたり相談に乗ってあげてたりするじゃないですか。私はそれができないんです。

言い訳をすると、最初にもお話ししたように私、IRIAMはVの世界ではあるけれど人と人が向き合うことに関してはリアルと何ら変わらないものだと思っているので。普通初めて会った人に、挨拶して早々相談事をしたり簡単にアドバイスをもらおうとしたりしないじゃないですか。あと役者やダンスの世界って、何かを学びたいときにはお金を払ってワークショップに参加するとかいろんな作品に触れて研究したりするのが当たり前なんですよね。だから、いきなり枠に来て平気でみんなの話を中断させて、悪びれもせずに自分の悩み相談をしてくるのってどうにも受け入れられなくて。正直に「やめてください」って言ってしまう。

言われた人も不快だろうことはわかっているので、これはプロフィールにもしっかり書いてあるのですが、それを読まずに来られる人もいるんですよね。プロフィールを真剣に読めば、禁止事項も含めてその人のことがわかるから。それくらいはしてから門戸を叩いたほうが失敗しないよって。まるで励ましにならないメッセージですごく恐縮なのですが「ライバーならプロフィールはちゃんと読んでから枠回りをしようね」ってことですかね。

とはいえ私が変わり者なだけで、みんながみんなこんなに怖いわけではないから安心してください。でも、たとえそうであってもマナーがきちんとできているというのは悪いことじゃないと思うので、周りへの心遣いができるライバーになってほしいです。

口うるさいことを言いましたが、IRIAMという不思議な世界との出会いは私にとって大きな人生の転機になりました。いろんなトラブルもあったけれど確実に成長できているし、かけがえのない存在や時間をたくさんもらえました。あなたにもぜひそんな体験をしてほしいです。

今回のイルミナリー掲載もそのひとつですし、大好きなみんなに喜んでもらえるとっておきのプレゼントになりました。読んでくださったみなさんにも感謝します。ありがとうございました!

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